世界禁煙デー

 

第20回世界禁煙デー・宮城フォーラム

 

「第20回世界禁煙デー・宮城フォーラム」開催の報告
「オリンピックと禁煙」 2014年5月31日(土) 開催

 

 

大高要子、安達哲也、安藤由紀子
佐藤 研、多田和弘、山本蒔子
NPO法人禁煙みやぎ


キーワード:世界禁煙デー・宮城フォーラム、禁煙、オリンピック、スポーツ

 

はじめに

 NPO法人禁煙みやぎは、世界禁煙デーの5月31日(土)にエルパーク仙台セミナーホールにて、第20回世界禁煙デー・宮城フォーラムを開催した。昨年決定した2020年東京オリンピックに向けて、宮城県でも受動喫煙防止条例の制定を実現し、オリンピックは禁煙で実施しなければならないことを啓発するために、テーマは「オリンピックと禁煙」とした。基調講演は「オリンピックと禁煙」とし、シンポジウムは3名の専門家が「スポーツとタバコ」で講演した。

 

基調講演「オリンピックと禁煙」

 NPO法人禁煙みやぎ理事長の山本蒔子が「2020年東京オリンピックでは宮城県でサッカー競技の予選大会が予定されている。そこで今回はオリンピックと禁煙をテーマにした。」と開会のあいさつをした。

 

 禁煙みやぎ理事、東北労災病院健診部長佐藤研が座長を務め、NPO法人禁煙みやぎ理事長山本蒔子が基調講演「オリンピックと禁煙」を行った。
 冒頭、これまで19回の世界禁煙デー・宮城フォーラムを開催したが「スポーツとタバコ」は重要なテーマと考え2002年と2005年にも取り上げたことを紹介した。ニコチンは血管を収縮させて血圧をあげ、心臓の負担を大きくする。さらに一酸化炭素は酸素に比べて赤血球ヘモグロビンに結合しやすく酸素欠乏をきたすため、スポーツをする際の喫煙は体に大きな負担を掛けることになる事を今まで啓発してきた。
 続いて「オリンピックと禁煙」の歴史について述べた。国際オリンピック委員会(IOC)はすでに1988年カルガリー大会から、禁煙で開催する方針を決定している。1999年にはWHOが初めて画期的な国際保健条約であるタバコ規制枠組み条約(FCTC)を提案し、2000年に世界保健総会で加盟国192か国の全会一意で採択され、2005年2月に条約を発効した。2010年にはIOCとWHO は、タバコをやめスポーツを盛んにすることで世界中の人々の健康を増進し、増え続けている生活習慣病を予防しようとの合意文書を発表した。
 2010年にWHOはオリンピックなどのメガ・イベントをタバコフリーにするためのガイドライン1)発効した。その内容は、オリンピック大会は徹底したタバコフリーで開催する。スタジアム及びその周辺、通路や待機区域、選手村、ホテル、レストランおよび交通機関などすべての場所でタバコ煙がない状態にする。また、タバコ産業のスポンサー行為を拒否する。さらに1988年以降のオリンピック開催都市のすべてにおいて、罰則付きの受動喫煙防止法や条例が定められている。と述べた。
 今回の東京オリンピック開催に関して、IOCの五輪総括部長ジルベール・フェリー氏から日本禁煙学会に送られた手紙の内容も紹介した。オリンピックはタバコフリーで行われなければならない。オリンピック運動に参加するすべての人々の健康を保持増進し、受動喫煙被害を防止しなければならない。そのためには開催都市と政府が、すべてのパブリックな施設と区域における喫煙を禁止する法律を制定する必要がある。法律の制定と実施を促す促進剤としてオリンピックが役立つことを望んでいる。と書かれていることを説明した。宮城県においてもオリンピック大会の開催を機に受動喫煙防止条例を制定し、オリンピック大会に備えることが必要であると結論した。

 

シンポジウム「スポーツとタバコ」

 禁煙みやぎ理事、NTT東日本東北病院内科安達哲也が座長を務め、シンポジウム「スポーツとタバコ」が行われた。

 

 鈴木省三氏は仙台大学教授でボブスレー・スケルトン部監督であり、ソチオリンピックボブスレー・リュージュ・スケルトンチームリーダーでもある。「オリンピアンとしてのスポーツ教育に対する《覚悟》」という題で講演した。
 ソチオリンピックから帰ったばかりであること、ソチオリンピックがタバコフリーの実にクリーンな環境で開催されていた事を報告した。スポーツにとってタバコは運動能力を阻害するものでしかないことを示し、スポーツの価値はタバコを止める行為の価値と似ており、どちらも《覚悟》というものが必要であると言及した。それは、現代社会では何でも手軽にすぐ手に入る。大勢の人と協力して額に汗を流して何かを作り上げていくことが少なくなったため、たくましい人間が育つ環境が乏しくなってしまった。スポーツでは技術や体力および勝利は買うことができないし、どんなに悔しくても悲しくてもそれを受け入れて、新たな挑戦のために立ち上がらなくてはならない。だからこそスポーツをすること、継続することに価値がある。「スポーツは子供を大人にし、大人を紳士にする」とも言われている。真のアスリートになるには、このような《覚悟》というものが必要で、それは《タバコを止める覚悟》にも通じるものがある、と述べた。
 また鈴木氏は宮城県の児童の身体能力は全国平均より低く、大人ではメタボが多くワースト3位に入っている事は嘆かわしいと述べた。2020年のオリンピックでは宮城県でサッカーの予選開催はもちろん、決勝トーナメント誘致の動きもあり、東北6県の住民参加による聖火リレーもある。宮城県スポーツ振興計画では10年後に、オリンピックへ向けて県民のスポーツ実施率が向上し、子供の体力向上、国体等の競技力の向上、メタボ激減、健康寿命の延伸などが実現することを目指している。と同時に《喫煙率の大幅減少》も実現できるのではなかろうか。と、宮城県民にとって幸せな景色を示した。スポーツ界と禁煙みやぎのコラボレーションについても言及した。

 

 長谷川節子氏は看護師であるが、NPO法人救急救命と医療安全を学び実践する会の会員、日本リウマチ財団登録ケアー看護師および日本SMO協会(Japan Association of Site Management Organizations 日本治験施設支援機関)公認CRC(Clinical Research Coordinator 治験コーディネーター)でもある。「スポーツを通して禁煙について考える」と題して講演した。
 NPO法人救急救命と医療安全を学び実践する会での活動では、スポーツイベントにおける救護、AED講習会など行っているが、スポーツ時に心停止した実例について心停止から除細動までの時間と病院退院率に関するデータを示した2)。その上で虚血性心疾患にならないためには、タバコを吸わないのが原則であると述べた。
 3人の子育てから、スポーツ少年団で経験した受動喫煙について、少年野球団の指導者や親が近くでタバコを吸っている行為、それを子供たちが見ているという状況は恐ろしいものであると紹介した。
 またリウマチ登録看護師として禁煙指導の重要性について述べた。リウマチはタバコを吸う事で関節リウマチの悪化因子であるIL-6などのサイトカインが産生される。担当した患者さんが永年リウマチの治療を受けていたが、禁煙して半年でCRPが減少し治療薬も不要になった症例を示した。リウマチケアーには禁煙指導が必須と訴えた。

 

 岸本光司氏は東北公済病院に勤務する整形外科医であり、ベガルタ仙台チームドクターでもある。「タバコ・ニコチンが運動器に及ぼす影響」と題して講演した。
 初めに、最近ある落語家が慢性閉塞性肺疾患(COPD)で入院したが、肋骨にもひびが入っていたというニュースを紹介し、喫煙がCOPDの原因となりさらにCOPDが骨粗鬆症や骨折の危険因子でもあることを示した3)。
 ニコチンが筋肉と骨をつなぐ腱へどのように影響しているかを研究した論文について紹介し、腱細胞にゼラチナーゼニコチンをかけると、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)というタンパク分解酵素が減少する。その結果分解されるタンパクは増えると考えられるが、腱組織では古い細胞外基質を分解し新しい細胞外基質を合成するという代謝が行われず、悪いたんぱく質が増える可能性がある4)。また肩の腱(棘上筋腱)を取り出して強度試験を行った結果では、ニコチンによって腱が固くなることが分かった5)。臨床的には肩の腱板断裂は喫煙者に多いと述べた。

 

 総合討論ではフロアからの活発な意見が出された。鈴木氏の《覚悟》についてもっと詳しく知りたい、若い女性の喫煙や妊娠との関係についても知りたい、老化との関係はどうなのか、など様々な質問があった。また宮城県議会議員が受動喫煙防止条例を推進していくにはもっと県へ働きかけて欲しいと発言した。禁煙みやぎの会員で、東北大学教授の黒澤氏は、喫煙対策を健康増進ととらえてスポーツ関係者とも協力することが必要ではないかとの意見を述べた。
 アンケート回答には、オリンピックが禁煙で開催されることを初めて知った、腱細胞にもタバコの害が及んでいるとは驚いた、などの意見も寄せられた。
 最後に宮城県予防医学協会多田和弘による閉会の挨拶があり、今後もっと受動喫煙防止、飲食店の禁煙および公共施設の禁煙を推進していくべきであることを強調し、フォーラムを終了した。

 

おわりに

 今年のフォーラムは例年より多く、110名の参加者があった。活発な意見交換もあって20回記念となる有意義な内容であった。東京オリンピックという具体的なイベントに向けて何をすべきかの方向性を見出すことができた。スポーツ界と禁煙みやぎのコラボレーションを実現させ、宮城県民の健康と環境のためにぜひ受動喫煙防止条例制定へ一歩前進させようという《覚悟》ができたフォーラムであった。

 

 

引用文献
1) メガ・イベントをタバコフリーにするためのガイド. 世界保健機関西太平洋事務所 2010年.http://www.nosmoke55.jp/action/megaevent.html
アクセス日2014.11.8
2) 河村剛史:心肺蘇生法国際ガイドライン2005(G2005)の解説.ひょうごVirtual健康科学センターHP(掲示板)2006.http://www.hyogohsc.or.jp/bbs/bbs31.html  
アクセス日2014.11.08
3) Sin DD, Man JR, Man SF: The risk of osteoporosis in Caucasian men and women with obstructive airways disease. Am J Med 2003 ; 114 : 10-14.
4)Hatta T, Sano H, Sakamoto N,et al : Nicotine reduced MMP-9 expression in the primary porcine tenocytes exposed to cyclic stretch. J Orthop Res 2013 ; 31 : 645-650.
5)Ichinose R, Sano H, Kishimoto KN, et al : Alteration of the material properties of the normal supraspinatus tendon by nicotine treatment in a rat model. Acta Orthopaedica 2010 ; 81 : 634-638.

 

 

 

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