世界禁煙デー

 

第18回禁煙推進・宮城フォーラム 開催報告

NPO法人禁煙みやぎ理事 金上病院 安藤由紀子

 

禁煙みやぎの活動とフォーラムの開催
NPO法人禁煙みやぎは、5月31日の「世界禁煙デー」に合わせて1995年から毎年宮城フォーラムを開催している。今回は、受動喫煙防止条例をすでに制定している、神奈川県と兵庫県の先進的な取り組みを学び、宮城県において条例制定を推進したいと考えた。テーマは「サヨナラ!受動喫煙」とし、11月10日に、エルパーク仙台セミナーホールで開催し、100名近い参加があった。

 

兵庫県受動喫煙防止条例について
禁煙みやぎ理事NTT東北病院安達哲也氏の座長のもと基調講演に入った。兵庫県受動喫煙防止対策委員長、17学会禁煙推進学術ネットワーク委員長、日本禁煙学会理事、兵庫県立尼崎病院・県立塚口病院院長の藤原久義氏は「喫煙問題の4つの錯覚と兵庫県受動喫煙防止条例について」―国際的スタンダード&神奈川県条例との比較―と題して講演された。錯覚1は、喫煙は趣味・嗜好、禁煙はマナー、本当に悪いなら国家が販売を認めるはずがない。真実は膨大な健康被害があり、喫煙は病気で喫煙者は患者であり、ニコチン依存症として禁煙保険治療が可能である。錯覚2は、税金を払い社会貢献している。真実は、税収の3倍の損失があり、日本のタバコの値段も税金も極端に安い。錯覚3は、受動喫煙はマナーの問題。真実は、非喫煙者にとっても重大な健康被害があり、受動喫煙による推定死者は国内だけでも年間6800人。従って、約80%を占める非喫煙者は遠慮せずにもっと声を上げるべきである。錯覚4は、受動喫煙防止をしても、そう簡単にガンや心筋梗塞が減るはずがない。真実は、諸外国では、受動喫煙防止条例施行直後から減少している。
その後、兵庫県受動喫煙防止対策検討委員会の委員長として条例制定までの長い道のりをお話された。WHOたばこ規制枠組条約(FCTC)に基づく国際スタンダードは、完全禁煙で分煙を認めず罰則を伴う法的規制を明記している。しかし我が国では、喫煙室設置に公的補助が認められ、罰則は明記されていない。神奈川県条例と兵庫県条例との比較では、官公庁、病院、学校の喫煙室を神奈川県が可とし、兵庫県は不可。喫煙者に2万円以下の過料(行政罰)は両県とも有り。改善命令に従わない施設管理者の罰金(刑事罰)は、神奈川県は無し、兵庫県は有り。喫煙室設置の補助金は神奈川県では無し(ただし融資と利子負担あり)、兵庫県は有り。県議会で全面禁煙施設が大幅に縮小され喫煙室に対する補助金制度などが認められ修正された。しかし、兵庫県受動喫煙防止条例は不完全だが、今後、公衆の集まるすべての場所の全面禁煙へのファーストステップであると締めくくられた。


神奈川県受動喫煙防止条例の効果

シンポジウム「宮城県受動喫煙防止条例に向けて」では、山本蒔子理事長が座長を務め、シンポジストは禁煙推進地方議員連絡会事務局長、スモークフリーキャラバンの会事務局長、元神奈川県県議会議員関口正俊氏、蕎麦店古拙店主伊藤友子氏および宮城県議会副議長佐々木征治氏の3名であった。
関口正俊氏は「受動喫煙防止条例を全国で制定しよう」と題して講演された。県民や事業者の意見を聞くため、ふれあいミーティングや県民タウンミーティング、施設管理者との意見交換会を何度も開催し、飲食店やパチンコ店等の現場訪問を重ねたこと等の条例成立までの経緯を報告された。
施行後3ヶ月間は、まだ罰則のない時期であったが、すでに飲食店等約8割は対策を実行しており、残りも改装工事等の対策を進めていた。5か月目では、9割以上が来店客数や売り上げに影響がなかったと回答した。その後も横浜F・マリノスの中澤佑二さんを中心としてスモークフリー・サポーターズ・クラブを作り、キャンペーンに精力的に取り組んだ。条例応援団を組織し、条例協力店へステッカーを提供した。また、塾長を俳優の舘ひろし氏としてかながわ卒煙塾を企画開催した。
条例を機に禁煙を試みた人は喫煙者の16%で、そのうち禁煙1年後の達成率は30%と推測され、82,560人が条例を機に禁煙できたことになる。県民の80%以上が受動喫煙の健康影響を認識、70%以上が受動喫煙防止対策の進展を認識しているという調査結果が発表された。また、タバコを「毎日」「時々」吸っていると回答した人が18.6%から15.3%になった。このように、条例制定後に禁煙者が増えた事から、法律を定める重要性を改めて認識させられた。

 

飲食店と受動喫煙防止
蕎麦店古拙店主伊藤友子氏は「飲食店の受動喫煙防止をすすめるために」と題して講演された。飲食店にとって、受動喫煙被害は非常に悩ましい問題である。健康増進法第25条では、飲食店も受動喫煙の防止措置を講ずるよう求められている。零細企業の多い飲食店においては主に2つの理由で、ほとんど守られていない。
一つは、飲食店経営者の多くが「店内禁煙にすれば、お客さんの来店が減り売上が減少する」と考えている点である。もう一つは、厳しい価格競争のため、分煙設備へ投資をする余裕が持てない実情である。厚労省による助成金制度もあるが、投資額が大きい割に助成率4分の1でしかないので、負担は負えないのが本音である。当店では新規店舗から全面禁煙としているが、お客様の受動喫煙防止以外に、飲食店従業員の受動喫煙防止や、店内の嫌な匂いや汚れの防止という店舗運営上の目的も大きな要素である。
厚労省の統計では、昨年の我が国の喫煙率は20%を切ったとのことだが、残念ながら多くの飲食店においては、5人中4人を占める非喫煙者の健康権利が重視されていない。本来、味や香りを楽しむ場である飲食店においては、他の環境よりも受動喫煙に対して敏感であるのが望ましいと考える。しかし、この状況を改善するためには零細企業の多い飲食店だけに任せては難しく、法令や条例による規制強化や、完全分煙設備投資に対する助成又は低利融資等、健康促進のための公的な後押しが不可欠であると考える。また、消費者の完全禁煙店優先の姿勢や、それを受けて完全禁煙に移行する飲食店主の勇気を持った行動が、結果的に現状を改善していく力となると思われる。

宮城県受動喫煙防止条例に向けて
宮城県議会副議長佐々木征治氏は、1日40~60本の喫煙者であるが次のように話された。議員の3分の1は喫煙者であるが、これまでのお話は吸っている仲間にも聞かせたい。高速バスに乗ってもバス内は禁煙、パーキングエリアは分煙、東北新幹線は禁煙である。しかし、山陽新幹線では吸えるスペースがあり、バスも前列のみが禁煙であり、地域によってかなり差があると認識している。宮城県のタバコ税収入は、48億8000万円である。私としては、分煙という方向で条例を制定したいと考えている。
栄養士の妻は、禁煙するように強く言うが、私の父はハイライトを吸っているが99歳で頭はしっかりしている。妻の父はタバコを吸わないが、要介護状態で施設で過ごしている。同級生や仲間がタバコを吸っていて若くして亡くなる人を見ているが、能動喫煙者が癌で死ぬと介護費がかからない。医療費の問題だけでなく、介護保険費はどうなのかも知りたいと思う。
しかし、受動喫煙防止の重要性は十分理解しており、3年以内には制定したいと思っている。タバコを吸わない人が言うよりもタバコを吸う私が言い出すことに意味があり、皆の賛同を得られるのではないかと思う。ぜひ議会での勉強会等に禁煙みやぎの皆様の協力をいただきたいと締めくくった。 喫煙者の方が勇気を持ってこのようなお話をして下さった事は画期的であり、今後の条例制定に向けての一歩となるのではと期待する声が多く聞かれた。
「条例制定に向けてご発言いただいた佐々木氏に期待したい。条例制定が一歩前進に繋がる」と関口氏からの応援メッセージでまとめられた。

 

おわりに
本フォーラムは、多数の一般市民をはじめ、行政の保健担当者、大学関係者等の参加を得て、毎年開催されて今回で第18回を数えた。2011年3月11日の大震災の年にもフォーラム開催日確認の問い合せを頂き、継続することの大切さを実感した。禁煙みやぎとして市民への啓発は、一定の成果を得られてきていると考える。
今回のフォーラムに、喫煙者である宮城県議会副議長の佐々木征治氏が参加し、発言された事は貴重であった。禁煙みやぎは2009年2月に、宮城県庁議会棟の禁煙化に関する要望書を、宮城県議会議長に手渡している。また、2012年4月の日本禁煙学会学学術総会前日に宮城県庁を訪れた際には、宮城県議会副議長の佐々木氏にも、受動喫煙防止条例制定の要望書を手渡し、その必要性をお話している。これらの活動の結果が、佐々木氏の受動喫煙防止条例の制定に取り組む発言に繋がったと思われる。

今後、フォーラムの中で要望のあった宮城県議会議員の勉強会等を早速開催し、条例制定へ具体的に歩み出そうと考えている。禁煙みやぎ理事、平成眼科病院吉田晶子氏より「来年は宮城県受動喫煙防止条例に向けて更なる活動を展開していきたい。」との閉会の挨拶で締めくくられ、フォーラムは終了した。

 


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